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微積を使う交流回路

目次

  1. 目標
  2. 交流回路とはなにか?
  3. 交流回路の電圧
  4. 抵抗,コイル,コンデンサーの電圧
  5. 抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を微積を使って求める
  6. 交流回路の位相差
  7. 実効値とはなにか?
  8. 電流の流れにくさを表す
  9. 交流回路の具体例
  10. 最後にアドバイス

目標

微積を物理にあまり使わない人でもわかるレベルで,微積を使う交流回路について講義します.

目標は,微積を使えば交流回路で暗記する必要はないことを知ってもらい,実際に微積を使い問題を解くことができるようになってもらうことです.

交流回路とは何か?

電圧 v,電流 i が時間 t により sin または cos 的に変化している回路,を交流回路という.

(例) v=V sin(ωt + α) ,i=I cos(ωt + β)

<Point>sin,cos の位相θ(角度)の部分を,θ=ωt + α(β)のように表す方法時刻t=0の時の位相をα(β)(αβは定数),時刻t=tの時の位相をθとして,その値を,
角速度の定義 : ω=Δθ/Δt
に代入すると,
ω=θ-α(β) /t-0 ←ΔA=(Aの終わりの値)-(Aのはじめの値)
⇒θ=ωt + α(β)

(注意) sin と cos は位相θを変えることにより同じ関数を表すことができるから, 交流回路の電圧,電流の関数が sin,cos のどちらでも本質には関係がない.よって,sin と cos のどちらを使ってもよい.
(例) sin (θ+π/2) = cos (θ),cos (-θ+π/2) = sin (θ)


交流回路の電圧

● 抵抗,コイル,コンデンサーの電圧

抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を表す式を確認します[図1].

抵抗: V = R I (1)
コイル: V = L (d I / dt ) (2) (注)
コンデンサー: Q = C V ⇒ V = Q / C (3)

あと準備として,電流の定義を確認します.

電流の定義: I = dQ / dt (4)

抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を表す式
[図1] 抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を表す式

(注)(2)のコイルの誘導起電力の式にマイナスがついていない理由

回路を考えるときには,
電池では,低電圧から高電圧の向きを,
回路素子では,高電圧から低電圧の向きを,
電流の流れる向きと定義
しています.

コイルに電流を流したとき,誘導起電力は
電流の上流が高電位になり下流が低電位になります.

このとき,
コイルを電池と見れば,
回路での電池の電流の定義の向きと逆なのでマイナスがつきます.

コイルを回路素子と見れば,
回路での回路素子の電流の定義の向きに一致するので,電流の向きの
補正のためのマイナスをつける必要がなくなるのです.

「微積を使う交流回路」では,コイルを電池ではなく回路素子と
みなすことにします.
よって,(2)の式にマイナスはつきません.



さらに,数学の準備をします.

三角関数の微分

( sin(f(x)) )' = f'(x) cos(f(x)) (5)
( cos(f(x)) )' = -f'(x) sin(f(x)) (6)

三角関数の積分(三角関数の微分の式の両辺を積分することにより得る)

∫cos(f(x))dx = (1/f'(x))sin(f(x)) (5)'
∫sin(f(x))dx = - (1/f'(x))cos(f(x)) (6)'
(ただし,f(x)は1次式とする)

これだけ押さえておけば微分積分を使い交流を理解することができます


● 抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を微積を使って求める

今から微積を使って考えていきます. 微積を使えば,抵抗,コイル,コンデンサーの電圧をわざわざ覚える必要がなくなります.

電流をi=I sin(ωt + α)とする.(αが入っているのでこれは交流回路の電流を一般的に表している.詳しい理由はここ.)


まず,抵抗について考えます.
抵抗の電圧の定義式V = R I (1)に,電流i=I sin(ωt + α)を代入すると,
V = R I sin(ωt + α) (7)
を得る.
これが交流回路での抵抗の電圧です.(これは単に代入しただけですから簡単ですね)

次に,コイルについて考えます.
コイルの電圧の定義式V = L (d I / dt ) (2)に,電流i=I sin(ωt + α)を代入すると,
V = L (d(I sin(ωt + α))/dt)
となる.
ここで,d(I sin(ωt + α))/dtの計算をします.
( sin(f(x)) )' = f'(x) cos(f(x)) (5)より,
d(I sin(ωt + α))/dt
= I d(sin(ωt + α)) (I は定数だから外に出した)
= I (ωt + α)' cos(ωt + α) (f(x)=ωt + α , f'(x)=(ωt + α)'=ω)
=ωI cos(ωt + α)

よって,V = ωL I cos(ωt + α)
を得る.
これが交流回路でのコイルの電圧です.(電流の微分のところで三角関数が出てるのでちょっと厄介ですね)

最後に,コンデンサーについて考えます.
コンデンサーの電圧の定義式V = Q / C (3)に,抵抗やコイルのように電流i=I sin(ωt + α)を代入したいのですが 電流の式がコンデンサーの電圧の定義式に含まれていません.
そこで,今から電圧の定義式を電流の式が出てくるように変形します.
電流の定義はI = dQ / dt (4)
この式の両辺にdtを掛ければ,dQ = I dt となる.
この式の意味は,微小時間dtに流れていく微小電気量dQは 電流 Iと微小時間dtの積に等しいということです.だからこの式で,微小時間dtでの微小電気量dQを全ての時間で足し合わせていけば(積分すれば), 全体の電気量Qを求めることができます.
式で書けばこういうことです.
∫dQ = ∫I dt
⇒Q = ∫I dt (4)' (この式も電流の定義を表している)
以上で,QをIの式で表すことができました.

このとき,(4)'を(3)に代入すると,
V = ∫I dt / C
となる.
この式に,電流i=I sin(ωt + α)を代入をすれば,
V = ∫I sin(ωt + α)dt / C
となる.

ここで,∫I sin(ωt + α)dtの計算をします.
∫sin(f(x))dx = - (1/f(x))cos(f(x)) (6)'より,
∫I sin(ωt + α)dt
=I∫sin(ωt + α)dt(I は定数だから外に出した)
= - I (1/(ωt + α)') cos(ωt + α) (f(x)=ωt + α , f'(x)=(ωt + α)'=ω)
= - I (1/ω) cos(ωt + α)

よって,V = -(1/ωC) I cos(ωt + α)
を得る.
これが交流回路でのコンデンサーの電圧です.(積分の意味を考えて新しく電流の定義を導くところと三角関数の積分が厄介です)

(補足)上の積分の計算で不定積分を行ったとき,積分定数を0とした.なぜなら,もし積分定数が0でなくI0(≠0)だとしたら, 常にコンデンサーに定常電流が存在することになる.しかし,これは明らかに起こり得ない.よって,I0=0(コンデンサーに定常電流は存在しない)とした.


最後に,電圧の求め方をまとめます.
<Point>抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を微積を使って求める方法
  1. 電流を適当に設定する(たとえば,i=I cos(ωt + α))
    (もちろん,問題文で電流が指定されているならそれに従う)
  2. 抵抗,コイル,コンデンサーの電圧の定義式(式(1),(2),(3))に1で設定した電流を代入する

<問題1>
電流をi=I sin(ωt + α)として,抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を求めよ.

<解答>
上の説明を参照.(自分で導けるようにする)


交流回路の位相差

● 位相差の意味について

交流回路では,抵抗,コイル,コンデンサーで位相差があるという話が出てきます.
位相とは三角関数の角度にあたる部分です.位相差とはふたつの式の位相の差をさしています.

たとえば,電流 i = I sin(ωt + α) の位相はωt + α, コンデンサーの電圧 V =(1/ωC) I sin(ωt + α + β) の位相はωt + α+ βであり,電流に対するのコンデンサーの電圧の位相差は ⊿θ=(ωt + α+ β)-(ωt + α)= βとなる.

<位相差を考えるときの注意>
位相差を考えるとき,ふたつの式の三角関数が同じなら位相以外の部分が違っていてもよい.(上の例で,電流は i = sin(ωt + α)であり,コンデンサーの電圧はV =(1/ωC) I sin(ωt + α + β)と sinにかかっている値が違っているけれど位相差を考えるときには関係ない)
しかし,三角関数が同じでない(一方が+sinのとき,もう一方が-sin,+cos,-cos)なら位相差を考えることができないので,同じ三角関数にしてから位相差を考える
(上の例では,電流,コンデンサーの電圧の三角関数が同じ +sinなのですぐに位相差を考えることができた)

位相差の求め方をPointにします.
<Point>位相差を求める
  1. 三角関数を同じ型にする
  2. 式A,式Bの位相を求める
  3. Aに対するBの位相差=(Bの位相)-(Aの位相)に代入する


ここからが本題になりますが,位相差がわかると何がわかるのでしょうか?
まず,位相の意味は,位相とは三角関数の角度の部分だから,位相は三角関数の値を定めると考えることができます.
このとき,位相差の意味は,位相の値が違うのだから,位相差は三角関数の値がどれだけ違う値を取るかを決めると考えることができます.

上のような位相差の解釈はわかりやすいですが,物理現象を考えるのに適した考え方であるとは限りません.そこで,具体例を通して物理現象に適した位相差の意味について考えていきます.

y1= A sin (ωt ),y2= B sin (ωt + π/2)
のふたつの式において,
(y1の位相)=ωt ,(y2の位相)=ωt + π/2
であり,y1に対するy2の位相差は,
位相差⊿θ=(ωt + π/2)-(ωt)=π/2

この位相差は上で考えた位相差の意味をふまえれば,y2はy1に対して位相差π/2分だけ値が常に異なることを意味しています.
図にするとこちらのようになります.(図は新しいウインドウで開きます)
確かに位相差の意味どおりに,どんな時刻でも常にy2はy1に対して位相差π/2分だけ値が常に異なっています.
しかし,このような位相差の考え方を物理現象に適用してもあまり意味がない(現象が見えてこない)ので,位相差があることによって何が起きているかを別の見方で考えていきます.
図を見ると,y2は位相が常にπ/2大きいので,常にy2が最大値をとってから一定時間(=(π/2)/ω(角速度の定義から求めた))経過した後で,y1が最大値をとることがわかります.

つまり,位相差は最大値をとる時刻の違いを表していると考えることができます.
(最初の位相差の解釈はある時間に注目して考えたもので,二つ目の解釈は変位が最大値をとる時間に注目して考えたものです)
<Point>位相差

位相差は最大値をとる時刻の違いを表している.
よって,Aに対してBが常に正の位相差があれば,常にBはAより先の時刻に最大値を取り,Aに対してBが常に負の位相差があれば,常にBはAより後の時刻に最大値を取ることわかる.

この位相差の考え方を定常状態の直流回路と交流回路に適用すると,次のようにそれぞれの回路の違いが見えてきます.

定常状態の直流回路では,電流が最大値を取るとき電圧も最大値を取る.
一方,交流回路において電流と電圧に位相差があるとき,電圧が最大値のときに電圧は最大値を取らない.
このことから,交流回路は定常状態の直流回路と違って複雑な働きをしてるだろうと推測できる.


電流に対する抵抗,コイル,コンデンサーの電圧の位相差を求める準備として次の問題を解いてください.(ただの数学の問題です)
<問題2>
y0 = sin(ωt + α), y1 = sin(ωt + α), y2 = - sin(ωt + α),
y3 = cos(ωt + α), y4 = - cos(ωt + α) とする.
このとき,y0に対するy1,y2,y3,y4の位相差を求めよ.
また,y0~y4が最大値を取る順番を求めよ.


<解答>
Point位相差を求める に従って考えます.

Step1.y1~y4をy0の三角関数の型(+sin)と同じにする
y1はy0と同じ型なのでO.K.
y2は,-sin(θ) = sin(θ+π)を使い,
y2 = sin(ωt + α+ π)
y3は,cos(θ) = sin(θ+π/2)を使い,
y3 = sin(ωt + α+ π/2)
y4は,-cos(θ) = sin(θ-π/2)を使い,
y4 = sin(ωt + α+ π/2)
(三角関数の型を変換する式は,左辺の値が+sinのどの位相の値に対応するか単位円またはグラフで考えれば良い)

Step2.y0~y4の位相を求める
(y0の位相)=ωt + α,
(y1の位相)=ωt + α,
(y2の位相)=ωt + α+ π,
(y3の位相)=ωt + α+ π/2,
(y4の位相)=ωt + α- π/2

Step3.y0に対するy1~y4の位相を求める
(y0に対するy1の位相差)=0
(y0に対するy2の位相差)=π
(y0に対するy3の位相差)=π/2
(y0に対するy4の位相差)=-π/2


Point位相差 をふまえれば,最大値を取る順番は
y2→y3→y0→y4となる.


● 抵抗,コイル,コンデンサーの位相差を求める

さて,ここから抵抗,コイル,コンデンサーの位相差を求めて行きます.

抵抗,コイル,コンデンサーの電圧を微積を使って求めるで求めたように,
回路の電流がi=I sin(ωt + α)のとき,
抵抗の電圧:VR = R I sin(ωt + α)
コイルの電圧:VL = ωL I cos(ωt + α)
コンデンサーの電圧: VC = -(1/ωC) I cos(ωt + α)
となります.

位相差を考えるために,三角関数の型をそろえると(<問題2>の解答参照),
回路の電流がi=I sin(ωt + α)のとき,
抵抗の電圧:VR = R I sin(ωt + α)
コイルの電圧:VL = ωL I sin(ωt + α + π/2)
コンデンサーの電圧: VC = (1/ωC) I sin(ωt + α- π/2)

このとき,位相差はそれぞれ
(電流の位相)=ωt + α,(抵抗の電圧の位相)=ωt + α,
(コイルの電圧の位相)=ωt + α + π/2,
(コンデンサーの電圧の位相)=ωt + α- π/2
なので,
(電流に対する抵抗の電圧の位相差)= 0
(電流に対するコイルの電圧の位相差)= +π/2
(電流に対するコンデンサーの電圧の位相差)=-π/2
となる.

位相差の意味を考えれば,
交流回路では,電流と抵抗の電圧は同じタイミングで最大値を取り,電流に対してコイルの電圧は位相差+π/2の分だけはやく最大値を取り,電流に対してコンデンサーは位相差-π/2の分だけおそく最大値を取ることが分かる.

ちなみに,コイルの電圧が最大のときには電流は最大に達していないという位相差の意味は,コイルは自己誘導により逆起電力が生じるため最大電圧をかけてもすぐには最大電流にはならないという性質に対応しています.

コンデンサーの電流が電圧より先に最大になるという位相差の意味は,コンデンサーに電流が流れ電荷がたまり,電圧が生じるという性質(電流が流れるほうが,電圧が生じるより時刻が常に先になる)に対応しています.

交流回路の動的なイメージがほしい人は,ここが参考になると思います(JAVAを使って位相差の意味が見えるように説明されています).

実効値とはなにか?

実効値とは,交流の電圧,電流などのように,時間的に変化するものの大きさを示す値の一つで,平均電力が等しくなる直流に換算した値です.わかりやすく言うと,実効値とは交流回路を直流的に考えるために導入したものなのです.

高校物理では,交流回路に微積を使わないので実効値を使い考えることがメインになります.しかし,実効値を使えば直流的に考えることができるとはいっても,実際には交流回路を扱っているので直流回路とまったく同じようにはいきません.そのため,微積を使わずに交流回路を解こうとすると多くの暗記が必要となります.

ここでは,とりあえず実効値を導入します.

回路の電流がi=I sin(ωt + α)のとき,
抵抗の電圧:VR = R I sin(ωt + α)
コイルの電圧:VL = ωL I sin(ωt + α + π/2)
コンデンサーの電圧: VC = (1/ωC) I sin(ωt + α- π/2)

このときsin,cosがくっついているのはわずらわしいのでそれぞれの電流,電圧の最大値を取る
電流の最大値:iMax= I
抵抗の最大電圧:VR,Max = R I
コイルの最大電圧:VL,Max = ωL I
コンデンサーの最大電圧: VC,Max = (1/ωC) I

さらに,直流らしく考えるために(電流,電圧の実効値)=1/√2× (電流,電圧の最大値) を取る
電流の実効値:ie=1/√2× iMax=1/√2× I
抵抗の電圧の実効値:VR,e = 1/√2× VR,Max= 1/√2× R I= R ie
コイルの電圧の実効値:VL,e = 1/√2× VL,Max = 1/√2× ωL I = ωL ie
コンデンサーの電圧の実効値: VC,e = 1/√2× VC,Max = 1/√2× (1/ωC) I = (1/ωC) ie
電流計,電圧計の値は実効値

<Point>実効値
  1. 電流,電圧の最大値を取る
  2. (電流,電圧の実効値)=1/√2×(電流,電圧の最大値)を行う
(注)実効値は最大値を1/√2倍しただけなので,実効値で成立することは最大値でも成立するし,最大値で成立することは実効値でも成立する.

いやに気軽というか簡単に実効値を導入してしまいましたが,この導入には二つの問題があります.それは上でアンダーラインが引かれている部分です(どこがおかしいかわかりますか?).そこに交流回路に微積を用いないと暗記が必要になる理由が隠されています.

一つ目のアンダーラインの部分については,後で実際に電圧の計算をするとき(「RLC直列回路」)に考えることにして,ここでは参考として二つ目のアンダーラインの部分の説明をしましょう.

二つ目のアンダーラインの部分で疑問なのは何で最大値の1/√2倍が実効値になるのかということです.これは,一番始めに書いたように実効値は平均電力が等しくなる直流に換算した値なので実際に消費電力を求めて正しいかどうか確認しましょう.

<参考>消費電力を求める
(ハイレベルの大学では結果を暗記するだけでなく計算ができることが求められます)

回路の電流がi=I sin(ωt + α)のとき,
抵抗の電圧:VR = R I sin(ωt + α)
コイルの電圧:VL = ωL I cos(ωt + α)
コンデンサーの電圧: VC = -(1/ωC) I cos(ωt + α)

(消費電力P)=(電圧V)×(電流i)なので,

抵抗の消費電力:PR= RI2 (sin(ωt + α))2 =1/2 RI2 (1 - cos 2(ωt + α))
このとき,1周期(t=0~t=T(=2π/ω))での抵抗の消費電力は,PRを1周期分時間積分を行えば,
(1周期分の抵抗の消費電力)= 1/2 RI2 * T となります。
このとき、平均の抵抗の消費電力は、
(平均の抵抗の消費電力)=(1周期分の消費電力)÷(1周期 T)
= 1/2 RI2 = (1/√2× R I) × (1/√2× I)
= (抵抗の電圧の実効値)×(電流の実効値)

となっている.
つまり,最大値の1/√2倍を実効値として導入して問題はない.
(厳密には,電力は電圧や電流の2乗に比例するから,実効値を求めるには,2乗し平均をとったものの平方根を計算すればよい.(これは上の説明で納得できない人用の説明です))

コイルの消費電力:PL= ωLI2 (sin(ωt + α)cos(ωt + α)) =1/2 ωLI2 (sin 2(ωt + α))
このとき,1周期(t=0~t=T(=2π/ω))でのコイルの消費電力は,PLを1周期分時間積分を行えば,
(1周期分のコイルの消費電力)= 0となるので、
(平均のコイルの消費電力)= 0
(注意)1周期全体では消費電力はないが瞬間瞬間ではPLのように消費電力は存在している.

コンデンサーの消費電力:PC= -(1/ωC)I2 (sin(ωt + α)cos(ωt + α)) =- 1/2 (1/ωC)I2 (sin 2(ωt + α))
このとき,1周期(t=0~t=T(=2π/ω))でのコンデンサーの消費電力は,PCを1周期分時間積分を行えば,
(1周期分のコンデンサーの消費電力)= 0となるので、
(平均のコンデンサーの消費電力)= 0
(注意)1周期全体では消費電力はないが瞬間瞬間ではPCのように消費電力は存在している.

<さらに補足>
コイル,コンデンサーでは消費電力が0になっているけれど,実効値はどうなったんだと思うかもしれません.
実効値は交流回路を直流的にしたものですが,完全に直流とは一致していません.
正確には電流に対する電圧の位相差がφのとき,
(消費電力)=(電圧の実効値)×(電流の実効値)×cosφ
となっていて,
コイル,コンデンサーでは位相差がπ/2なので消費電力は0になっています.


電流の流れにくさを表す

実効値とはなにか?」で実効値を導入しました.実効値とは,交流を直流的に考えるために導入したものです.

直流回路には,抵抗と呼ばれる電流の流れにくさを表す量が存在しています.実効値が直流的なものならば,抵抗に対応するものが存在するはずです.だから今から,交流回路において抵抗に対応するものを定義しましょう.

直流回路では,(電圧)=(抵抗)×(電流)という形を取っていました.
だから,この類推として交流回路において抵抗に対応するのは,
(電圧の実効値)=(交流回路の抵抗)×(電流の実効値) -(*)
となると考えられます. このことをふまえて,抵抗,コイル,コンデンサーにおける電流の流れにくさを表す量を定義します.

回路の電流がi=I sin(ωt + α)のとき,
抵抗の電圧:VR = R I sin(ωt + α)
コイルの電圧:VL = ωL I sin(ωt + α + π/2)
コンデンサーの電圧: VC = (1/ωC) I sin(ωt + α- π/2)

最大値を取って,
最大電流:i=I
抵抗の最大電圧:VR = R I
コイルの最大電圧:VL = ωL I
コンデンサーの最大電圧: VC = (1/ωC) I

両辺を 1/√2 倍して実効値を取る.
電流の実効値:ie=1/√2×I
抵抗の実効値:VR,e = R ie
コイルの実効値:VL,e = ωL ie
コンデンサーの実効値: VC,e = (1/ωC) ie

(*)より,交流回路において電流の流れにくさを表す量はそれぞれ次のようになる.
抵抗:R(抵抗と呼ぶ),コイル:ωL(リアクタンスと呼ぶ),コンデンサー: 1/ωC(リアクタンスと呼ぶ)


また,抵抗,コイル,コンデンサー単独ではなくて,回路全体で,
(回路の電圧の実効値)=(交流回路全体の抵抗)×(回路の電流の実効値)
が成立するとき,
交流回路全体の抵抗部分はインピーダンスと呼ばれる.

<Point>電流の流れにくさ

交流回路における電流の流れにくさは,下の式の(交流回路の抵抗)の部分で表わされる.
(電圧の実効値)=(交流回路の抵抗)×(電流の実効値)


交流回路の具体例

● RLC直列回路

ここからは,実際に交流回路を実際に解いてもらいます.そして,問題を通して微積を使えばインピーダンスなどをわざわざ暗記する必要はないということと,実効値の図形的意味(「実効値とはなにか?」で保留した問題)について知ってもらいます.

<問題3>はインピーダンスを暗記する必要が無いことをわかってもらうための問題です.
<問題3>
電流i = I0 sin(ωt)のとき,下のRLC直列回路のAB間の電位差VABを求めよ.
また,Ve = Z Ie をみたすインピーダンスZを求めよ.(Ve,Ieは実効値)
RLC直列回路

<解答>
まず,AB間の電位差VABを求める.
i = I0 sin(ωt)のとき,
VR=Riより,VR=RI0 sin(ωt)
VL=L(di/dt)より,VL=ωLI0 cos(ωt)
VC=∫i dt / Cより,VC=-(1/ωC)I0 cos(ωt)

VAB=VR+VL+VCが成立するので,それぞれの値を代入して,
VAB=RI0 sin(ωt) + (ωL-(1/ωC))I0 cos(ωt)
=√(R2+(ωL-(1/ωC))2) I0sin(ωt+φ) (電流に対する電圧の位相差はφ,tanφ=(ωL-(1/ωC))/R)
←a sinθ + b cosθ =√(a2+b2) sin(θ+φ) (tanφ=b/a)

次に,Ve = Z Ie をみたすインピーダンスZを求める.
<point>実効値にしたがって考える.
Step1.i,VABの最大値をとる.
iMax= I0
VAB,Max=√(R2+(ωL-(1/ωC))2) I0←sin(ωt+φ)=1のとき最大
Step2.(電流,電圧の実効値)=1/√2×(電流,電圧の最大値)を行う
Ie=(1/√2)iMax=(1/√2)I0
Ve=(1/√2)VAB,Max=√(R2+(ωL-(1/ωC))2)(1/√2) I0

よって,
Ve=√(R2+(ωL-(1/ωC))2)Ieが成立するので,
インピーダンスZ=√(R2+(ωL-(1/ωC))2)となる.←微積を使えば暗記の必要はない

<問題4>は<問題3>と中身は同じですが,実効値の図形的意味を知ってもらうための問題です.
<問題4>
電流の実効値がIeのとき,下のRLC直列回路においてAB間の電位差の実効値VAB,eを求め,VAB,e = Z Ie をみたすインピーダンスZを求めよ.
RLC直列回路
<解答?>
まずは典型的な誤答から.
抵抗の電圧の実効値:VR,e = R ie
コイルの電圧の実効値:VL,e = ωL ie
コンデンサーの電圧の実効値:VC,e = (1/ωC) ie
が成立する.
このとき,
VAB,e = VR,e + VL,e + VC,eが成立するので,
VAB,e = R ie + ωL ie + (1/ωC) ie = ( R+ωL+(1/ωC))ie
よって,インピーダンスZは,R+ωL+(1/ωC)となる.

上の解答は<問題3>の結果とは違っているので間違いですが,どうして間違ってしまったのか分かりますか?
間違えてしまったのは,「実効値とはなにか?」で実効値を導入したときに説明を保留した部分,sin,cosがくっついているのはわずらわしいのでそれぞれの電流,電圧の最大値を取る,を考慮しなかったためなのです.今からこの保留した問題点について解説します.

何が問題なのかと言うと, 実効値⇔最大値なので,実効値の式は電流i,電圧VR,VL,VCが全て最大のときに成立する式です.しかし,電流,電圧間には位相差が存在している(最大値をとる時刻が違う)ので,全ての式が同時に最大値をとることは無いのです.
だから,実効値(⇔最大値)で考えるときには位相を含めて考えなくてはならない(実効値は交流を直流的に考えるために導入したが,実効値を使って電圧を計算するときには直流と同じように単に足し合わせる(スカラー和をとる)方法は使えない).

位相を含めて考えるために,実効値を使って電圧の計算をするときには,sin,cosのかわりにベクトル表示が使われます.ベクトル表示とは,電流,電圧をベクトルとして考えるもので,大きさは実効値の大きさ,向きは位相によって決まります.

例えば,電流に対して電圧の位相差がφのとき,電圧のベクトルは,電流のベクトルから反時計回りにφ回転した向きに書く[図2].電圧の計算をするときにはベクトル和を考えることよって,三角関数の代用をすることができるのです.
   ベクトル表示
[図2]ベクトル表示
ではここから実際にベクトル表示を使い<問題4>を解きましょう.
<解答>
電流に対して,抵抗の電圧の位相差は0で,コイルの電圧の位相差は +π/2,コンデンサーの電圧の位相差は-π/2なので,ベクトル表示は次のようになる[図3].
RLC直列回路のベクトル表示
[図3]RLC直列回路のベクトル表示

このとき,3つのベクトルの和を取ると,AB間の電位差の実効値VAB,eは[図4]の赤矢印の大きさで,電流に対する電圧の位相差はφとなる.
RLC直列回路の電圧の実効値
[図4]RLC直列回路の電圧の実効値


よって,三平方の定理より,VAB,e=√(R2+(ωL-(1/ωC))2)Ie(tanφ=(ωL-(1/ωC))/R)
インピーダンスZ=√(R2+(ωL-(1/ωC))2)となる.←微積を使ったときと同じ結果


最後にアドバイス

以上で,微積を使う交流回路の講義は終わります.微積を使えば交流回路で覚えなくてはいけないことはほとんどないということがわかってもらえたでしょうか?交流回路は出題率が低いですからわざわざ暗記するより,微積を使ったほうがコストパフォーマンスは良いのではないでしょうか.

とりあえず,交流回路で最低限必要になることは全て解説しました(電気振動についてはふれませんでしたが,ばね振り子の類推で考えれば特に問題はないでしょう).後は,それぞれ自分の使っている問題集で演習をすれば十分です.

より深く交流回路を学びたい人は新・物理入門などの微積を使って物理を解説している参考書・問題集を参考にしてみてください.

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投稿者 猫背の狸 、更新日 2006年12月30日