力学
束縛条件の求め方
物体はあらゆる値の位置、速度、加速度をとることができます。
しかし、何らかの制限を受けて位置、速度、加速度はとることができる値を制限される場合があります。
このときの物体の運動を束縛運動といい、その束縛運動を決める条件を束縛条件と呼びます。
高校物理の範囲の運動は、単純なものが多いので普段は束縛条件を意識することがありません。
しかし、束縛条件なしに束縛運動は解けないので、この機会に知っておきましょう。
入試問題で複雑な状況設定が出てきたときに役立ちます。
ここでは具体的な問題を通して束縛条件について考えて行きます。
解答は、
斜面に水平方向:m a = mg sinθ
斜面に垂直方向:m 0 = N - mg cosθ⇔ N = mg cosθ(N:垂直抗力)
となります。
よくある設定なので解答を覚えてしまっている人もいるかもしれませんが、この解答に束縛条件が使われています。わかりますか?
上の解答では、本来任意の値を取ることができる加速度について、斜面に水平方向をa、斜面に垂直方向を0と勝手に決めてしまっています。
このように加速度のとることができる値を制限するものが束縛条件なのです。
では、束縛条件はどのように求めるのでしょうか。
求め方をPointにまとめます。
Step1. 物体の運動を制限する条件を問題文から見つける。
Step2. 物体の運動が制限されるときにとる軌道を求める。
Step3. Step2.で求めた軌道を物体が運動するために、物体がとらなくてはならない位置、速度、加速度を求める。それが束縛条件となる。
このPointにしたがって、<問題>の束縛条件を求めましょう。
まずStep1です。
問題文を見ると、斜面上を動いているとあります。
本来、物体は斜面上だけを動く以外に、斜面から飛んだりする可能性などもあるわけだから、これは物体の運動を制限している条件です。
次にStep2です。
斜面上を動いているのだから、軌道は斜面に沿ったものになります。それ以外の軌道は取りません。
最後はStep3です。
このStepは定性的に求める方法と、定量的に求める方法の2通りのやり方があります。ここでは両方の方法で求めます。
●定性的に考える
斜面に沿った軌道を取ると言うことは、物体は常に斜面上に位置していて、斜面に沿った方向にしか物体は移動しません。
よって、斜面に沿った方向以外の加速度、速度の成分はゼロになります。
なぜなら、もし加速度、速度がゼロでなければ物体が斜面に沿った方向以外に動いてしまうからです(※)。
※ある方向に加速度を持つ→その方向に速度を持つ→その方向に物体が移動する
この関係は、加速度=⊿(速度)/⊿(時間)、速度=⊿(位置)/⊿(時間)
をふまえれば明らかです。
よって、束縛条件は
・位置・・・斜面上
・速度・・・斜面に沿った方向以外の速度の成分はゼロ
・加速度・・・斜面に沿った方向以外の加速度の成分はゼロ
となります。
●定量的に考える
斜面に水平な方向をx軸、垂直な方向をy軸とします。
物体は斜面に沿った軌道を取るので、位置は
x=時間に依存する変数 ←具体的な値は不明
y=0
と求まります。
つぎに、速度v= (vx,vy) =dr/dt = (dx/dt,dy/dt)より、速度は
vx = dx/dt = d(時間に依存する変数)/dt = 時間に依存する変数 または 定数
vy = dy/dt = d(0)/dt = 0
そして、加速度a= (ax,ay) =dv/dt = (dvx/dt,dvy/dt)より、加速度は
ax = dvx/dt = d(時間に依存する変数 または 定数)/dt = 時間に依存する変数 または 定数
ay = dvy/dt = d(0)/dt = 0
と求まります。
よって、束縛条件は
・位置・・・(x,0)
・速度・・・(vx,0)
・加速度・・・(ax,0)
(x,vx,axの具体的な値は不明)
となります。
このように求めた束縛条件を、運動方程式に代入すれば上の解答のようになるわけです。
束縛条件は、当たり前すぎることなので普段は意識しませんが、これを求めずに運動方程式を解くことはできないので、キチンと求めることができるようにして下さい。
ただ、定性的に求める方法は厳密性があまりないので、難関大学以上を目指す人は、定量的に求める方法を身につけたほうがよいでしょう。
微積を使うので難しく感じるでしょうが、やっていることは高2で習う簡単な微積です。
投稿者 猫背の狸 、更新日 2006年12月30日
運動方程式の変形
目次
目標
力学の問題を解くとき中心となる法則は、運動方程式、力学的エネルギー保存則、運動量保存則です。
しかし、どんなケースのときにどの法則を使えばよいのかを、よく分かっていない人も多いのではないでしょうか。
実は、これらの3つの法則には次のようなつながりがあります。
力さえわかれば、運動方程式を解くことによってどんな運動でも解析できる。
しかし、必ずしも力を求めることができないので、力がわからなくても式を立てることができる力学的エネルギー保存則、運動量保存則に変形する。
このことを知っていればわけもわからずに式を立てることは無くなります。
この記事の目標は、このつながりを意識して問題を解けるようにすることです。
すこし微積の話が出てきますが、わからない人はよくわからないけど結果そうなるんだなぐらいの理解で十分です。そのうち分かるようになります。
力学の問題の解き方
物体の任意の時刻での位置を求めることが力学の目的です。
位置を求めるためには、速度、加速度の情報が必要です。
微分の逆操作が積分なので、
加速度が分かれば、時間で積分することにより速度が分かります(v=∫adt)。
速度がわかれば、時間で積分することにより位置が分かります(r=∫vdt)。
(積分をするときは初期条件がないと値が確定しない)
加速度は「運動方程式 ma=F」から求めることができるので、
原理的にはどんな問題でも運動方程式を立てれば必ず解くことができるはずです。
「運動方程式」の問題と対応策
「運動方程式」は微分が含まれた方程式なので、数学の言葉では微分方程式といいます。
この微分方程式を解けば、位置、速度、加速度が求まります。
しかし、「運動方程式」には問題があります。
力を具体的な関数で表せなくては「運動方程式」を解くことができないのです。
このようなとき、問題を解くために運動方程式を変形する必要があります。
これからその変形の2つの方法を解説します。
- 保存力・・・位置の関数
- 平面上の運動の抗力・・・定数
- 傾角θの斜面上の運動の抗力・・・定数
- 曲面上の運動の抗力
- 振り子の張力
「運動方程式」に仕事の定義を適用する
最初に準備として、仕事の定義について説明します。
物理での仕事Wは、力Fと変位Δrの内積で表されます。
厳密に定義すると次のようになります。
点Aから点Bにある軌道に沿って移動したときの仕事:
W=∫軌道F・dr(点A→点B)
それぞれの微小仕事dW(=力Fと微小変位drの内積=F・dr)を求め、それらを足しあわせる(∫軌道dW)ことを表しています。
軌道に沿った積分は大学で学ぶ範囲です。
仕事の定義式を見ると力、軌道が含まれているので、
仕事を求めるためには力の関数、軌道の関数を求めなくてはならないことが感覚的に分かると思います。
しかし、簡単に仕事が求めることができるケースがあります。
・力が0のとき
・力と変位が常に直交するとき
です。
1つ目のケースは本当に簡単ですね。
力が0なのだから、仕事が0になるのは当然です。
2つ目のケースをこれから解説します。
力と変位が常に直交しているので、微小に変位しているときも力と変位は直交しています。
このとき、微小仕事dW=F・dr=Fdr cos90°=0(∵cos90°=0)となり微小に変位したときの仕事は常に0なので、トータルの仕事Wも0になります。
このように、常に力と変位が直交しているときは、力の関数がわからなくても簡単に仕事の値は0と求めることができます。
これらの仕事の性質は後の話で役に立つので覚えておいてください。
ここから、「運動方程式」の変形の1つ目の方法:「運動方程式」に仕事の定義を適用 を紹介します。
仕事の定義の形にするために、運動方程式の両辺を位置で積分すると、
(移動前の運動エネルギー)+(移動間の仕事)=(移動後の運動エネルギー)
となります。これはエネルギーの原理と呼ばれています。
x軸上を常に一定の力Fxを受けて動く等加速度運動の場合で考えます。
(xAからxBに移動したとする)
運動方程式の両辺を位置xで積分すると、
∫m ax dx=∫Fxdx ← 右辺が仕事を表す
(xの積分区間:xAからxB)
このとき、
(左辺)=m ax ∫dx ← m,axは定数だから外に出した
=m ax Δx ← ∫dx=xB-xA=Δx
等加速度運動の公式
vB2 - vA2=2 ax Δx
を代入すると、
(左辺)=m(vB2 - vA2)/2
=(1/2)mvB2 - (1/2)mvA2
を得る。
以上より、運動方程式を位置で積分したとき、
(1/2)mvB2 - (1/2)mvA2=W
⇔(1/2)mvA2+W=(1/2)mvB2
⇔(移動前の運動エネルギー)+(移動間の仕事)=(移動後の運動エネルギー)
となることが分かる。
積分を使った一般的な議論は、微積を使って力学の世界を見るで解説します。
移動間に働く力を保存力(重力、弾性力など仕事の値が軌道によらないで最初と最後の位置で決まる力)と非保存力(保存力でない力)に分類すれば、
(移動間の仕事)=(移動間の保存力の仕事)+(移動間の非保存力の仕事)
と変形できます。
ここでいきなりですが、
物体に働いている力が保存力のとき、現在の位置から適当に選んだ任意の基準点の位置までに運んだときに保存力がする仕事を位置エネルギーと定義します。
位置エネルギーの定義から、
(移動前の位置エネルギー)=(移動前の位置から基準点までの保存力の仕事) (1)
(移動後の位置エネルギー)=(移動後の位置から基準点までの保存力の仕事) (2)
(1)-(2):
(移動前の位置エネルギー)-(移動後の位置エネルギー)=
(移動前の位置から基準点までの保存力の仕事)-(移動後の位置から基準点までの保存力の仕事)
⇔(移動前の位置エネルギー)-(移動後の位置エネルギー)=
(移動前の位置から基準点までの保存力の仕事)+(基準点から移動後の位置までの保存力の仕事)(∵-(AからBまでの仕事)=+(BからAまでの仕事))
ここで、右辺は(移動前の位置から移動後の位置までの保存力の仕事)を表しているといえるので、
(移動後の位置エネルギー)-(移動前の位置エネルギー)=(移動間の保存力の仕事)
これらの式をエネルギーの原理に代入すれば、
{(移動前の運動エネルギー)+(移動前の位置エネルギー)}+(移動間の非保存力の仕事)
={(移動後の運動エネルギー)+(移動後の位置エネルギー)}
と変形されます。
この式で値を求めるのが難しそうなのは、移動間の非保存力の仕事です。
非保存力の関数が分からないと求めることができないからです。
「これでは運動方程式のときと同じなのでは?」と思うかもしれません。
しかし、運動方程式に仕事の定義を適用した形で考えると、
非保存力の部分が消える都合のよいケースが起きます。
そのケースとは、非保存力が0または非保存力と変位が常に直交しているときです。
最初に解説したように、どちらのケースでも仕事の値は0になります。
よって、このときのエネルギーの原理は、
{(移動前の運動エネルギー)+(移動前の位置エネルギー)}
={(移動後の運動エネルギー)+(移動後の位置エネルギー)}
となります。 この式は力学的エネルギー保存則と呼ばれています。
・非保存力が0
または、
・非保存力と変位が常に直交
であることが分かります。
力学的エネルギー保存則の形に変形すれば、運動方程式のままでは何の情報も得られなかった式から物体の情報の一部を取り出すことができます。
- 曲面上の運動の垂直抗力
- 振り子の張力
- 摩擦のない曲面上の運動
- 振り子運動
「運動方程式」に力積の定義を適用する
<その1>では運動方程式を位置で積分しました。
<その2>では運動方程式を時間で積分する事を考えます。
先ほど解説したように、力と変位の積は仕事です。
力と時間の積で表される物理量もあって、力積と呼ばれます。
時刻tAからtBの間に働く力積は、
∫Fdt(tの積分区間:tAからtB)
と定義されています。
仕事では値が0になるケースがありましたが、力積も0になるケースがあります。
・力が0の場合
・力が働いていたのが瞬間的だった場合
です。
いつでも瞬間的なら力積は0というわけではないことに注意してください。
たとえば、衝突は瞬間的ですが、衝突前後で速度は変わりますよね。
速度が変わるということは、瞬間的な衝突をしたときに働いている力(撃力)による力積は無視できないということです。
では、「運動方程式」の変形の2つ目の方法:「運動方程式」に力積の定義を適用 を紹介します。
力積の定義の形にするために時間で積分すると、運動方程式は、
(質量)×(力が加わる前の速度)+(力が加わっている間の力積)
=(質量)×(力が加わった後の速度)
と変形できます。これは運動量の原理と呼ばれています。
x軸上を常に一定の力Fxを受けて動く等加速度運動の場合で考えます。
(時刻tAからtBの間に、xAからxBに移動したとする)
運動方程式の両辺を時間で積分すると、
∫m ax dt=∫Fxdt ←右辺は力積を表している
(左辺)=m ax∫dt←定数を外に出した
=m axΔt ←∫dt=tB-tA=Δt
加速度axは一定なので、
ax=dvx/dt=Δv/Δt ←瞬間の速度=平均の速度
が成立する。
よって、
(左辺)=m(Δv/Δt)Δt=mΔv
=m(vB-vA)
=mvB-mvA
を得る。
よって、運動方程式を時間で積分したとき、
mvB-mvA=∫Fxdt
⇔mvA+∫Fxdt=mvB
⇔(質量)×(力が加わる前の速度)+(力が加わっている間の力積)
=(質量)×(力が加わった後の速度)
となることが分かる。
積分を使った一般的な議論は、微積を使って力学の世界を見るで解説します。
これを利用すると、運動方程式では解けない(もしくはめんどくさい)現象を見ることができます。
以下ではその具体的な例として、2つの物体の空中での衝突を考えます。
2つの物体が衝突すると、2つの物体が衝突する瞬間に撃力とよばれる非常に大きい力が働きます。
この力を具体的に知る事はできないため、運動方程式のままでは対応ができません。
そこで、衝突の現象に運動量の原理を適用してみましょう。
2つの物体をA,Bとして、運動量の原理を使うと、
Aについて、
(Aの質量)×(Aに力が加わる前の速度)+(Aに力が加わっている間の力積)
=(Aの質量)×(Aに力が加わった後の速度)
Bについて、
(Bの質量)×(Bに力が加わる前の速度)+(Bに力が加わっている間の力積)
=(Bの質量)×(Bに力が加わった後の速度)
が成立します。
この2つの式を足せば、
(Aの質量)×(Aに力が加わる前の速度)+(Bの質量)×(Bに力が加わる前の速度)
+{(Aに力が加わっている間の力積)+(Bに力が加わっている間の力積)}
=(Aの質量)×(Aに力が加わった後の速度)+(Bの質量)×(Bに力が加わった後の速度)
となります。
力積の定義とA,Bの衝突時間が等しいことに注意して赤色の部分を変形すると、
赤色の部分={(Aに働く力)+(Bに働く力)}×(衝突時間)
となります。
衝突の瞬間に働く力は、
(Aに働く力)=(BがAに及ぼす撃力)+(Aに働く重力)
(Bに働く力)=(AがBに及ぼす撃力)+(Bに働く重力)
です。
よって、
(Aに働く力)+(Bに働く力)
=(BがAに及ぼす撃力)+(Aに働く重力)+(AがBに及ぼす撃力)+(Bに働く重力)
={(BがAに及ぼす撃力)+(AがBに及ぼす撃力)}+(Aに働く重力)+(Bに働く重力)
となります。
撃力は物体間で働く力(=内力)なので、作用・反作用の法則より、
{(BがAに及ぼす撃力)+(AがBに及ぼす撃力)}=0となります。
よって、撃力による力積はA,Bを合わせて考えると、トータルで0になります。
ただし、Aに働く撃力による力積、Bに働く撃力による力積が0になっているわけではありません。あくまでA,Bを合わせて考えるとちょうど打ち消しあっているだけです。
次に、重力による力積が瞬間的なため0と近似できるという話が出てきますが、撃力はとても大きい力なのでたとえ瞬間的でもその力積を0とすることはできません。
このとき、
赤色の部分
={(Aに働く重力)+(Bに働く力)}×(衝突時間)
=(Aに働く重力)×(衝突時間)+(Bに働く力)×(衝突時間)
となります。
この2つの項は、A,Bの重力による力積なのですが、
衝突時間が瞬間的なので0と近似することができます。
結局、赤色の部分=0となるので、2つの物体の運動量の原理の式をたし合わせたものは、
(Aの質量)×(Aに力が加わる前の速度)+(Bの質量)×(Bに力が加わる前の速度)
=(Aの質量)×(Aに力が加わった後の速度)+(Bの質量)×(Bに力が加わった後の速度)
となります。この式は運動量保存則と呼ばれています。
・物体間に働く力以外の力(=外力)が0
または、
・衝突が瞬間的で外力による力積が無視できるとき
であることが分かります。
運動方程式を変形した運動量保存則を衝突現象に使うと、衝突時の力が消えるため衝突の問題を解くことができます。
まとめ
- 力学の問題は、運動方程式、力学的エネルギー保存則、運動量保存則を使って解く
- 運動方程式は力の関数を求めなければ解けない
- 力学的エネルギー保存則、運動量保存則に変形すると、なんらかの情報を取り出すことができるケースがある
- 力学的エネルギー保存則は、非保存力が0 または 非保存力と変位が直交するとき成立する
- 運動量保存則は外力が0 または 衝突が瞬間的で外力による力積が無視できるとき成立する
更新履歴
08/05/06 エネルギーの原理のなかの位置エネルギーの式(1),(2)の符号が逆になっていたのを訂正。投稿者 猫背の狸 、更新日 2008年05月06日